







中之条ビエンナーレ2021(群馬・中之条) 2021年
中之条町は標高300mから2000mに及ぶ、標高差のある中山間地域を抱える町である。標高差があるということ、首都圏に近いということから昔から水力発電の適地とされたきた。
草津温泉にほど近い六合地区の奥地に野反湖という美しい湖がある。一見すると自然湖だが発電用のダム湖である。昭和30年代に作られた風景は自然との共生関係を感じさせる。
一方で発電されたエネルギーは都会に供給され続けてきた。野反湖で発電された水は日本海側の新潟県に流れている。発電する電力会社は東京電力である。白砂川周辺にある県管理の発電所も同じようにこの地域で使われることが主ではなく都市部に送られていく。戦中戦後には国内第2位の規模を誇った群馬鉄山からも多くの資源は中央へ供給され続けた。
自然界に存在するエネルギー資源を人類は利用し続けている。特に都市部におけるその関係性は一方通行だ。地方と都市の関係性とも重なる。
豊かな自然に囲まれ、慎ましく古くからの風景を大切に生きるこの土地で制作すると、自然に生かされながら生きていることを実感する。一方通行の関係性が共生、相互関係になることはあるだろうか。滞在制作中、エネルギーに感謝を持ち制作に励むことから始める。
築200年を超える土蔵作りの湯本家の室内と裏庭に展示をした。台所というエネルギーを利用してきた場所の隣の空き部屋に、エネルギーをテーマとした彫刻を設置した。電気を消費して動く作品で、電球を利用してモーターが回り、プロペラが風を起こしてシーソーのように揺れ動く翼の作品だ。これに対し、屋外では板材を曲木して作成した翼の彫刻が点在する。風を受けてシーソーのように揺れ動く作品である。この双方を糸で接続することにより、無風の時は室内のエネルギーで動く彫刻に主導権があが、時に自然の風が勝ったり、双方の協働が見られることもある。
再生可能エネルギーがもてはやされるが、環境汚染の問題や、ベースロード電源の確保が必要など問題の根本は解決していない。その問題が問われるように翼は揺らぐ動きを続ける。また、室内から放射状に点在する屋外彫刻に伸びる糸は、エネルギーの構造と同様で、まるで地方と中央の関係のようでもある。
助成:公益財団法人野村財団